Goro-Sakamoto’s world

坂本吾郎(Goro)が語る。自分の考えをストックし、アウトプットしていきたい。でも考え方は変わるものなので、その時々の思考が常に最新とは限らない。

メロス島の対話 その2

無駄な抵抗はやめて奴隷になれば、生き延びることができるし、我々はお前達を使って利益が得られる。つまりWINWINの関係だ、と詰め寄るアテナイ側を必死に説得しようと試みるメロス側のやり取り。

 

その1からの続き。

 

メロス

われらは敵ではなく、中立を維持したい。

 

アテナイ

諸君から憎悪を買っても、われらはさしたる痛痒を感じないが、 逆に諸君からの好意がわれらの弱体を意味すると属領諸国に思われ てはそれこそ迷惑、憎悪されてこそ、 強力な支配者としての示しがつく。

 

メロス

数多い中立諸国はメロスの例を見るや、 明日は我が身と思うことから、諸君は彼ら全部を相手に争うことになろう。

 

アテナイ

いな。 恐るべきは、いまだに支配に服していない島住民、 それからすでに服してはいるが、 支配者の要求に不満をとがらせているものたちだ。なぜなら、 誰よりもこれらのものは短慮な計画にとりつかれやすく、 明々白々たる破滅の淵におのれを立たせ、われらをも立たせよう、 とするからだ。

 

メロス

今なお自由を保持するものが奴隷化を拒み、 必死の抵抗を尽くすのは当然のこと、 然もなくば見さげはてた卑劣さ、卑怯さとさげすまれよう。

 

アテナイ

いや、諸君は今、圧倒的な強者を前にして、 鉾を収め身を全うすべき判断の場に立っておられるのだ。

 

メロス

われらにとって、 今降伏することは絶望を目白するに等しい、 だが戦えば戦っている間だけでも勝ち抜く希望が残されている。

 

アテナイ

希望とは死地の慰め。諸君は微力、 機会は一度しかないのだから、 そのような愚かな目にあおうとせぬがよい。また、 人間として取りうる手段にすがれば助かるものを、 困窮の果てついに眼に見えるものに希望をつなぎきれず、神託、 予言、 その他同様の希望によって人を滅ぼすもろもろの眼に見えぬものを 頼りにすべきでない。

 

メロス

われらは罪なきもの、 敵こそ正義に反するものであれば、 神明のはからいの欠くるところなきを信じ、 軍兵の不足はラダケイモンとの同盟が補いうると信じている。

 

アテナイ

 利益とは安全の上に立ち、正義、 名誉とは危険を冒してかち得られるもの。だが危険こそ、 概してラケダイモン人ができうるかぎり避けようとするものだ。

 

メロス

 その危険でも、われらのためとあれば、 すすんでかれらは冒し、 他のだれよりもわれらの信頼にこたえようとするにちがいない。 

 

アテナイ

援助を求める側がいくら忠誠を示しても、 相手を盟約履行の絆で縛ることにはなるまい。危機に立つ人間が最も警戒すべきは、 安易な名誉感にうったえることだ。往々にして人間は、 行き着く先がよく見えておりながら、 廉恥とやらいう耳ざわりのよい言葉の暗示にかかり、 ただ言葉だけの罠にかかってみすみす足をとられ、 自分から好んで、いやしようもない惨禍に身を投ずる。最大の国が寛大な条件で降伏を呼びかけているとき、 これに従うことをなんら不名誉と恥じる要はない。 相手が互角ならば退かず、 強ければ相手の意を尊重し、弱ければ寛容に接する、 という柔軟な態度を保てば、繁栄はまず間違いない。

 

メロス

 われらの考えは最初に述べたとおり、700年の歴史をもつこの国から、 一刻たりと自由を剥奪する意志はない。 神明のはからいとラケダイモン人の加勢のあらんことを頼みに、 国運安泰に力をつくしたい。

 

アテナイ

 ラケダイモン人や、 うんや希望を信じて何もかも賭けて疑わぬとあれば、 何もかも失ってしまうのもやむをえまい。

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こうして協議は終わり、アテナイに攻められたメロスにラケダイモンの加勢は来なかった。ついに降伏したメロスの成人男性は全員死刑になり、女子供は奴隷にされた。

 

 

戦争反対、自衛隊違憲、と声高に太鼓叩いて騒ぐだけで国民の安全が守れるのか、ということを改めて考えさせられる白熱のやり取りだ。

 

理想論だけでは国益は守れないので、パワー関係のリアリズムを踏まえた現実的な議論が必要なんだな。

 

世界は、正義が勝つ、という風にはできていない不条理だらけということなのかもしれない。

 

By Goro